ディルックの好感度ストーリーを、日本語の文法ルールに則って読みやすく再翻訳しています。YouTubeにて朗読会もしています。
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詩と酒の城として、モンドの酒造業は全大陸でもかなり有名である。
アカツキワイナリーのオーナーであるディルックは、酒造業においてモンド全域の約半数以上を掌握している。
それはつまり……。
金の流通と酒場に流れる情報の大半を握っているということになる。
ある意味、彼はモンドの無冠の王と言えるのかもしれない。
EpisodeⅠ
モンドの空気には常に酒の香りが漂っている。
その香りを辿るとディルックの「アカツキワイナリー」に辿り着く。
木製の看板にはワイナリーと書かれており、その下に小さく──
「始まりから終わりまで忘れない」と書かれてある。
人々はこの意味をワイナリーの酒は最初から最後まで美味しい。
まるで朝日の光のように希望に満ちている、と解釈している。
そして任務に励む
ワイナリーでは時折、飲み会が開催される。
酒が進むにつれ、未だ独身のあの貴公子に娘を紹介しようとする者も少なくないが、結局は周りにからかわれるだけだった。
『ディルック様が仕事と結婚してくれたおかげで、我々は美味い酒が飲めるんだ!』
相手が誰であろうと。
どんな要件があろうと。
彼はいつでも平然としている。
ディルックは完全無欠な紳士と言えるのかもしれない。
EpisodeⅡ
ディルックは過去の話を口にすることを嫌う。
『ディルック様が今でも騎士団に居たらいいのにな……』
ベテラン騎士は酔っぱらうと、時折そう嘆いてしまう。
──それはもう、かなり昔のことである。
ディルックの父親であり、ワイナリーの先代オーナーだったクリプスは、息子にモンドを守る騎士になってほしいと願っていた。
父の願いを叶えるため。
ディルックはラグヴィンド家の家訓に恥じぬよう、己を厳しく鍛えあげた。
騎士団の試験に合格してモンドを守ると誓った後、彼は晴れて騎士になった。
そして、最年少の騎兵隊長に抜擢されたのだ。
数え切れない程の任務と見回りの最中、モンドの人々は情熱に満ち溢れた騎兵隊長──
ディルックの事を知った。
どれだけ大変な任務でも、騎士としての気概と熱意が色褪せることはない。
どれだけ困難に直面しても、鋭い剣のように最前線で剣を振るう。
民衆や仲間の笑顔と賞賛が、赤髪少年の決意をより確固たるものにしたのだった。
けれど、彼にとって最も大事だったのはやはり──
『よくやった。さすが私の子だ』
父の誉め言葉がディルックの魂に炎を灯したかのように、彼に突き進む力を与えてくれた。
「信念」が彼の心の中で熱く、そして強く燃え続ける。
あの頃のディルックはそんな少年だった……。
EpisodeⅢ
『人の人生は、時に一瞬で変わる』
父のその言葉を最後に、ディルックの騎士人生は終わりを告げた。
あの日──
恐ろしい怪物が、彼とその父が乗った馬車を襲った。
あまりにも突然の出来事に、西風騎士団へ救援を出すことができなかった。
強大過ぎる怪物を前に、若き騎兵隊長はなす術がなかった。
この戦いは、ディルックですら予想ができなかった形で終止符を打った。
神に認められなかった父が──
騎士になれなかった父が──
見たこともない邪悪な力で怪物を倒したのだ。
そして、邪悪な力に体を蝕まれ、ディルックの腕の中で父、クリプスは静かに息を引き取った。
悲しみに暮れながら西風騎士団に戻ったディルックは、当時の大団長から
「真実を隠せ」
という命令を受けた。
騎士団の名誉を守るため、クリプスの死を「不幸な事故」として発表しなければならないと。
この理不尽な命令を聞いた時、ディルックの中で何かが崩れ始めた。
父は言っていた──
世界は信念のある人間を裏切らないと。
ではなぜ真実を隠してまで名誉を守ろうとするのか?
自分の信念は騎士団の名誉よりも価値が低いものなのだろうか?
そして父は最後、信念をどう捉えていたのだろう?
今となってはもうわからない。
ディルックは騎兵隊長としての地位と、神の目を捨て騎士団を抜けた。
それと同時に、彼はひとつの誓いを立てた。
あの邪悪な力の謎を解き明かし、父の仇を取ると。
こうして、七国を巡る復讐の旅が始まった。
EpisodeⅣ
騎士の肩書きと神の目を捨てた後、ディルックはワイナリーの業務をメイド長に任せ、一人でモンドを旅立った。
七国を巡る旅の中で、ディルックが求める情報に少しづつ近付いていた。
入手した全ての手掛かりが、世界的にも大きな組織。
「ファデュイ」に繋がっている事が判明した。
彼らは神の目の模造品である、邪眼を密かに作り出していた。
邪眼は使用者の生命を奪うものであり、父を死へ追い込んだのがこの邪眼だということがわかった。
なぜ父はこんな物に手を出したのだろう。
悪を滅ぼす力が欲しかったのだろうか?
今となってはそれを知る由もない。
真実を知ってもなお、彼の歩みが止まることはなかった。
ディルックはまるで、荒野を生きる鷹のように殺戮と狩りの旅を続けていた。
数え切れないほどの戦いの中で、体が傷だらけになろうと彼の気持ちが揺らぐことはない。
剣の腕も戦いの中で磨き続けられていた。
しかし、11人のファデュイ執行官も只者ではない。
ディルックが幾度もファデュイの拠点を破壊した後、一人の執行官が彼の元を訪れた。
生死の境を彷徨っていたディルックを、北大陸から来たという地下情報網の「観察者」が助けた。
彼曰く──
自分はディルックを長い間観察しその流儀を認めている、とのことだ。
ファデュイ執行官のおかげで命拾いしたディルックは、長きに渡る怒りから目覚め、復讐の旅に終止符を打った。
その後、彼は観察者の地下情報網に加入した。
騎士団に入った頃と同じようにディルックは本気で任務に取り組み、己の天賦と才能で上層部の情報をも把握するようになった。
地下情報網では自らの名誉、身分、名前すら捨てた戦士が山ほどいる。
果たして、彼らと長らく過ごしていたディルックは、父の死で打ち砕かれた信念を取り戻すことができたのだろうか。
EpisodeⅤ
「始まりから終わりまで忘れない」
この言葉に込められた意味については、多くの憶測が飛び交っている。
だが、ディルックにとってのその言葉の意味はただ一つである。
「すべての罪悪を駆逐する。平凡な人生だが使命を忘れるな、真のアカツキはまだ来ていない」
あれから四年後、青年になったディルックはモンドに戻り、アカツキワイナリーの新たなオーナーとなった。
この四年間で、イロックという人物が反逆者として騎士団に粛清され。
大団長ファルカが遠征に旅立ち。
最近副団長に就任したジンが、代理団長を務めることになっていた。
アカツキワイナリーのオーナー帰還は、モンドの人々にとって一大事になるはずだったが、民衆の関心は別のところに向いていた。
なぜなら──
モンドを裏から守る謎の守護者に目を奪われていたから。
夜に閃く赤い影と、たまに焦げた匂いがするぐらいしか確認されていないが、
・人々をずっと困らせていた魔物の死体が荒野で発見
・指名手配の盗賊が神像に吊り上げられている
・西風騎士団全員が出動し、倒そうとしていたアビスの魔術師が既に死んでいた
お酒を飲んだ後のネタとして、この守護者の話題がモンドの間に広まっていった。
そして最近になって、彼に具体的な呼び名が付けられた。
「闇夜の英雄」
他の人に比べて、ディルックはこの英雄にあまり良い感情は持っていないらしい。
この名前を聞く度に、彼は眉間にしわを寄せる。
酒造組合のエルザ―は真実を知るごく一部の人物。
彼は一度、密かにディルックに聞いてみたことがある。
『闇夜の英雄に対する嫌悪は、騎士団に正体を疑われないようにするために作った演技か?』と。
ディルックはいつものように眉間にしわを寄せながら、仕方なく答えた。
『この呼び名のセンスが酷すぎるだけだ』
アカツキワイナリーのアップルサイダー
モンドの酒造業を仕切るディルックは、酒が好きではない。
ディルックのリクエストに応えて、アカツキワイナリーは数々のノンアルコールドリンクを開発した。
お酒以外のドリンクを飲みたい人から大好評だった。
特にアップルサイダーと名付けられたフルーツ味のドリンクは、毎月の売上が
ディルックが酒を飲まない理由に関して、
酒へのこだわりが高いため、人前ではどこにでも売っている普通の酒を飲んだりしない。と思っている人もいれば、
酒がディルックに亡き父を連想させるため、飲まないのだと言う人もいる。
度重なる質問に、ディルックはこう説明した。
アルコールを摂取すると眩暈が起き、日常の業務に支障をきたすんだ。
日常生活でも酒を一滴も飲まない理由とは何なのだろう?
我々には理解できないことだった。
神の目
父クリプスの人生には二つの悔いが残っていた。
ひとつは騎士になれなかったこと。
もうひとつは神の目を授からなかったことだ
そのため、ディルックが神の目を授かった時。
ようやく自分と父の理想が神に認められたと思った。
──やっと父の期待に応えられた。
しかし数年後、父は暗い日に亡くなってしまった。
神の目の中で燃える期待と理想が、あの夜の雨でかき消された。
善人である一人の人間が、なんの前触れもなく命を落とす。
「正義を守るって所詮こんなものか」
神の目は騎士になる事と同じで、何の役にも立たず見捨てられるのも時間の問題である。
自分の弱さに気付いた時、神の目が邪眼のように厄介な重荷となっていた。
「偽りの美称はいらない」
彼が欲しかったのは全てを燃やし尽くす炎と、揺るぎない信念だけであった。
信念だけが真実を探究する者を奮起させ、炎だけが正義を凍結する氷を溶かすことができる。
モンドに戻ったあの日、神の目もディルックの元へ戻った。
心身ともに成長したディルックは、父の意志を継いで英雄になった。
彼は毎晩、モンドのために裏で戦っている。
過去を語らず過去を否めない。
人生に迷った人にとって、神の目は神から授かった導きの灯火なのかもしれない。
だが強い信念を持つ者にとっては、神の目は力の延長、意志の具現化、経歴の勲章と過去を振り返る標識でもある。
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